高知県の大豊町出身の母とイギリス人の父との間に生まれたバイオレット・パチレオさん。東京で金融コンサルタントを行っていたが、訪れるたびに大豊町が寂れつつあるのを感じ、一念発起で世界的に有名な「クロスフィット」のジム施設を作り、町を再起させる活動をスタート(2022年)。この前例のない挑戦が成功すれば、高齢化時代を生き抜く世界的な事例になるはずだ。
ーーーー無事、「クロスフィットおおとよストレングス」(2022年9月)がオープンしました。この山間でジムをやろうと思った理由は?
バイオレット) この大豊町は、母の実家でもあるので、子供の頃からよく遊びにきていました。私が子供の頃は商店街も賑わっていたし、駅にはもう少し人がいました。それが今では人が誰もいなくて、閑散としています。どんどん過疎化が進んでいくのが目に見えてわかりました。
ただその一方でラフティング会社さんとかが増えて、賑わいをみせている所もあります。その様子を見ていた長野に住む叔父が、「自分がもっと若かったら、新規事業にチャレンジしてみるのに」と嘆いていたんです。それが頭にあったので、東京で金融コンサルタントをやっていたのですが、これまで行っていた契約が切れた時に、自分で事業をやってみようと思いました。
――――かなりの覚悟が必要だったんじゃないですか?
バイオレット) 正直、駄目もとでしたけどね(笑)。まだ東京の家は売らずに、賃貸で貸し出して、残しているんですよ。チャレンジして、駄目だったら東京に戻ればいいやって(笑)。
2020年2月に旦那と子供3人に、先に大豊町に来てもらいました。旦那は日本に移住するため仕事を辞めて子供の面倒を見てくれていたので本当に助かりました。私は週末に大豊町に来て、月曜日に戻るという生活をしていました。途中、コロナの影響もあって、行き来もできなくなりました。
母は大豊町に住んでいたのですが、高齢なこともあり、土地の管理ができてなくて。柚子畑はほとんど駄目になりかけていたし、今、ジムがあるこの場所も草が生えっぱなしの状態でした。
何よりも母がこの地で一人暮らしをしているのが心配でした。家から出なくなって、テレビの前にずっと座る生活が続き、体重も増えてしまい、足に水が溜まっちゃって、歩くこともやっと。母を1人にすることが心配でした。そんなこともあり、この大豊町でビジネスをやろうという決意をしました。
―――大豊町でビジネスをやる上でも、いろいろな事業があると思いますが、なぜジム経営を選んだんですか?
バイオレット) 最初に3つの事業計画書を作りました。10年間の計画と投資回収比率も全部計算しました。実はこれは私が元々やっていた仕事なので、全然作れるんですよ。
1つ目はウイスキーを作る会社。これはすごく投資が必要で、しかも5年間は寝かせないといけなく、売上が出るのが先なので止めました。
2つ目は、クラフトビールを作る事業ですが、自分で飲むために、試しにネットで購入して作ってみたんです。ビールって化学的な知識が必要なことに気づいて、私は化学が得意でないので止めました。
3つ目は、クロスフィットという世界的に有名なメソッドを取り入れたジム。ジムはサービス業なので、利益率がいいんです。それと私、お酒が大好きで、子供が口を聞いてくれなくなるくらい飲み過ぎちゃうことがあって…(笑)。もっと健康的な生活を送ろうってことでジムがいいかなと。
――――クロスフィットとは、どんなトレーニングなんですか?
バイオレット) アメリカ発祥なんですけど、最初は警察とか軍隊に向けて行ったトレーニングです。時間のない人に向けて、短い時間で強度かつ総合的に身体を鍛えるということで、60分のプログラムが作られました。それが世界中に広まり、世界で一番フィットネスジムが多いのがクロスフィットです。日本には10年前にクロスフィットが入ってきているんですが、全て英語でやるプログラムなので、そこまで流行りませんでした。ただ今、徐々に人気が出てきています。
クロスフィットは、汚い倉庫とかで行ったのが始まりです。アメリカ、イギリス、オーストラリアもほぼ倉庫の中でトレーニングしています。そう考えると、世界で山の中にクロスフィットジムがあるのは、ウチだけです。しかもジム施設はもちろん更衣室まで地元の木を使って、建築士さんに建ててもらっています。
―――高知県の山の中で、地域は高齢化も進み、ジムに通う人は来るのですか?
バイオレット) そうですね、銀行にも言われた所です。
基本、ジム売上げの90%は、地元会員になる予定です。地元の方達の健康促進がゴール。
もちろん海外選手を招き国内のクロスフィッター向けのセミナーを開催したり、ウエイトリフティングやクロスフィットの大会を開いたり、そこから生まれるスポーツツリーズムも考えていますが、それは二番目です。
私の計算ですと、地元の3%の人は運動を欲していて、どこかで運動をしている。「じゃあ、どこで運動しているの?」と考えた時、みんな、市内に行っていたりするんです。逆に市内の人がわざわざウチのジムに来てくれてもいます。じゃあなんで来てくれるのかって、ウチの旦那が教えるような本格的に身体を鍛えられるジムが近くにないからだと思います。ウチの旦那はインストラクターをやっているのですが、元々はアメリカの有名な民間軍事会社で働いていました。アメリア大統領を守ったり、人質のレスキューをしていました。2016年にロサンゼルスから日本に来た時にクロスフィットの資格も取得しました。日本では趣味で柔術をやっていたら、世界選手権に出るような選手から「トレーニングの仕方を教えてください」って声をかけられて、無料で教えていたこともあって。これだけ本格的なトレーナーからトレーニングができ、山間にある木で作られたジムで習えるのは魅力的だと思いますよ。そういえば、先ほど話した家に閉じこもりきりだった母も、ここでトレーニングするようになって、今は苦痛なく歩けるようになりましたし、20kgのバーベルもあげられるようになりましたよ(笑)。
―――最後に今後の展望を教えてください。
バイオレット) 今後は大きな宿泊施設を作りたいですね。今、一棟はあるんですけど、4人しか泊まれないので。キャッシュフローがよくなれば、資金調達して、大きな宿を建てます。それとジムがある大豊町は日本で下から5番目に貧乏な町なんです。例えば、旅行者が日本で人気のエリアでお金を使ってさらに潤すのか、それともこういう貧乏な町に来て、町が潤うために自分のお金を使うのか。この大豊町にはまだまだお金を落としたくても落とす場所が少ない。やっぱり先ほども話しましたが、大きな宿泊施設を作りたいですね。
〒789-0166 高知県長岡郡大豊町東土居317-1
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